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宇都宮地方裁判所 平成6年(ワ)731号 判決 1997年10月16日

岡山市南方三丁目七番一七号

原告

株式会社ベネッセコーポレーション

右代表者代表取締役

福武總一郎

右訴訟代理人弁護士

浅岡輝彦

三森仁

遠山康

宇都宮市陽東三丁目二二番二〇号

被告

有限会社家庭教師センター

右代表者代表取締役

諏訪盛雄

宇都宮市陽東三丁目二二番二〇号

被告

諏訪盛雄

右両名訴訟代理人弁護士

一木明

佐藤秀夫

主文

一  被告らは、その営業上の施設または活動に「進研ゼミ」の名称を使用してはならない。

二  被告らは、原告に対し、連帯して金七八四万八七九四円及びこれに対する平成七年一月二八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

三  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文第二項の「金七八四万八七九四円」を「金八九六万三八八四円」とするほか主文同旨。

第二  事案の概要

本件は、「進研ゼミ」の名称で添削指導による通信教育を行っている原告が、被告らが学習教材の訪問販売を行うにあたって、「進研ゼミ」の名称を使用して原告の営業と混同を生じさせる不正競争を行い、原告に損害を与えたと主張して、不正競争防止法三条に基づく右不正競争の差止めを求めるとともに、同法四条又は民法七〇九条に基づき損害賠償を求めた事案である。

一  前提となる事実(認定事実には証拠を掲げる。)

1  当事者

(一) 原告(旧商号 株式会社福武書店)は、「進研ゼミ」の名称で、添削指導による通信教育その他の教育関連事業を全国的に展開している会社である(当事者間に争いがない。)。

(二) 被告有限会社家庭教師センター(以下「被告会社」という。)は、高校生を中心とした学習教材の販売を主たる業務とする会社であり、被告諏訪盛雄(以下「被告諏訪」という。)は、被告会社の代表取締役であるとともに、自らも大学入試模擬テストセンターの名称を用いて学習教材の訪問販売を行っている者である(当事者間に争いがない。)。

2  商標登録出願

「進研ゼミ」の名称については、原告を出願人として、指定商品を第二六類とする商標登録の出願公告がされている(公告番号 平六-八三六八)ほか、指定商品を第九類とする商標登録の出願(出願番号 平五-一二九四〇二)及び第一四類とする同出願(出願番号 平五-一二九四〇八)がされている(甲第三号証の三、第四号証及び第五号証の各一ないし三)。

3  「進研ゼミ」の名称の周知性

原告は、昭和四四年に高校生を対象とした通信添削講座「進研ゼミ高校講座」を、昭和四七年に中学生を対象とした「進研ゼミ中学講座」を、昭和五五年に小学五、六年生を対象とした「進研ゼミ小学講座」を、昭和六三年に幼児を対象とした「進研ゼミ幼児講座」を、平成六年に「進研ゼミおやこ講座」をそれぞれ開講した(甲第一、第六五号証、証人安信忠義)。

原告は、岡山本社、東京支社のほか、北海道、東北、名古屋、大阪、北陸、中・四国、九州に支社を有して全国展開し、前記進研ゼミの会員数も、平成六年には三〇〇万人、平成七年四月には三三〇万人に達した。原告の平成五年度における売上高一四九二億円のうち、約八割が進研ゼミの売上げである(甲第一、第六五号証、証人安信忠義)。

原告は、進研ゼミの会員獲得のため、広告宣伝と一体をなす営業活動を行い、平成四年度ないし平成六年度には、各年度につき二億通以上のダイレクトメールを作成して送付するとともに、ラジオ及びテレビの番組提供やコマーシャルの放映、全国紙における広告等を行い、これらの広告宣伝費として、各年度につき二〇〇億円以上を支出している(甲第六七、第六八、第七一ないし第七四、第七九ないし第九二号証、証人安信忠義)。

原告が調査会社に委託して平成六年度に全国七都市で行った進研ゼミのブランド理念の浸透度調査によれば、進研ゼミの名称を認知している者が九割近くに上るという結果が出ており、仙台、東京、大阪、岡山及び高松の各商工会議所が、「進研ゼミ」という商標について、一般に周知、認識されていることを証明している(甲第二、第九五ないし第九八、第一〇〇号証、証人安信忠義)。

二  争点

1  被告らが「進研ゼミ」の名称を使用したか否か。被告らがこれを使用することにより、原告の営業と混同を生じさせたか否か(不正競争又は不法行為の有無)。

原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあるか(差止めの必要性)。

2  被告らの行為が不正競争又は不法行為に該当する場合、被告らが賠償すべき損害額はいくらか。

三  原告の主張

1  被告らは、教材の訪問販売を行うにあたって、原告が主宰する進研ゼミ高校講座の会員の家庭を訪問し、会員及びその保護者に対し、進研ゼミから派遣された者であると名乗り、進研ゼミの内容と学校の教科書が対応していないという苦情が多いので教材を取り替えに来た等と告げて、株式会社三省堂(以下「三省堂」という。)の企画・編集にかかるエスコム高校ゼミほかの教材を販売した。被告らは、右販売に際し、進研ゼミの退会手続は被告らが行うこと、進研ゼミに支払った受講料が払い戻されること等の説明をし、実際に会員に代わって進研ゼミの退会手続をしたこともあった。

また、被告諏訪が大学入試模擬テストセンターを名乗るときは、右センターが進研ゼミの教材を取り扱っていると説明し、進研ゼミとの関連を装っていた。

被告らの前記行為は、原告の営業表示を口頭で使用する行為であり、進研ゼミの会員及びその保護者に対して、進研ゼミ又は進研ゼミと関連のある機関が教材の交換に来たものと誤信させ、原告の商品又は営業と混同を生じさせるものであるから、不正競争防止法二条一項一号の「不正競争」に該当するとともに、民法七〇九条の不法行為にも該当する。

2  原告が、被告らによる前項の不正競争及び不法行為によって被った損害は、 進研ゼミの会員及びその保護者の信用を失うこと、クーリングオフ等訪問販売をめぐるトラブルに巻き込まれることによりクレジット商法を利用しているという誤解に基づくマイナスイメージが醸成されること、原告が進研ゼミ会員の名簿を流出させているのではないかという疑念を与えること等の無形の損害のほか、有形の損害としては、進研ゼミの顧客が奪われたこと及び以下の費用合計八九六万三八八四円の出捐を余儀なくされた。

(一) 前記不正競争及び不法行為が被告らによって行われたことを特定するために、株式会社日本インヴェスティゲーション及び株式会社帝国データバンクに支払った調査費用合計七七万七四七九円

(二) 原告従業員を事情聴取のために進研ゼミの会員宅に派遣するために要した費用合計二三万三八八〇円

(三) 進研ゼミの会員及びその保護者に対して注意を促す通知の発送に要した費用合計四九五万二五二五円

(四) 弁護士費用三〇〇万円

3  以上のとおり、原告は、被告らの不正競争及び不法行為により、進研ゼミ開講以来培ってきた信用やこの信用を基礎とする営業上の利益を侵害され、将来においても侵害されることは必至である。

よって、原告は、被告らに対し、不正競争防止法三条一項に基づき、被告らの営業上の施設または活動に「進研ゼミ」の名称を使用することの差止めを求めるとともに、同法四条又は民法七〇九条に基づく損害賠償として、原告が被った損害の合計八九六万三八八四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年一月二八日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

四  被告らの主張

被告らは、販売対象者に対し、自己の商品がいかに原告の商品と異なるかを理解してもらうため、進研ゼミが学校の授業の進度に合わず使用しにくいこと及び三省堂の教材は授業の進度により問題を選択できることを説明し、いわゆる比較広告を行ったが、自己を進研ゼミと称してはおらず、進研ゼミの名称を使用したことはない。

また、仮に被告らが進研ゼミの名称を使用したとしても、原告の商品との混同(いわゆる出所の混同)は生じていない。すなわち、進研ゼミが原告の通信添削事業であることは周知の事実であり、同時に、高校生の間においては、三省堂も極めて著名であって、原告と三省堂が別会社であることは公知の事実であるから、教材選択の当事者である高校生に、三省堂の出版物が原告の商品であるとの混同が生じるおそれはない。さらに、原告が送付した注意を促す通知(甲第七五、第七六号証)を受け取った会員においては、尚更混同が生じる余地はない。

第三  当裁判所の判断

一  争点1について

1  不正競争防止法は、その二条一項において同法の規制対象である「不正競争」の諸類型について定め、同項一号において、他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。)として需用者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為を不正競争の一類型として掲げている。

本件で問題となっている「進研ゼミ」の名称は、第二の一2のとおり、原告の商標であり、原告の業務にかかる商品を表示するものとして使用されてきたものであるから、不正競争防止法上の前記「商品等表示」に該当するところ、第二の一3によれば、右名称は原告の商品等表示として需用者の間に広く認識されていることが明らかである。そして、これを「使用」するとは、広く混同を招来するような形で表示を利用することを意味するものであって、営業に関連して使用する一切の場合を含み、口頭による使用も含まれるものと解される。

そこで、被告らが、その営業活動である学習教材の訪問販売を行うに際して、進研ゼミという表示を口頭その他の方法で使用した事実があるか否かについて以下検討する。

2(一)  原告が入手した情報とその対応

証拠(甲第六号証の一、第七号証の二、第九号証の二、第一三ないし第一八、第二一ないし二七、第三〇、第三一、第三四、第三八、第四〇、第四一、第四七、第五一、第五五、第五七ないし第六四、第六九、第七〇号証、第七七号証の一、二、第七八、第一〇二ないし第一〇五、第一〇七ないし第一〇九、第一一三号証、第一一五ないし一二〇号証の各一、三、証人安信忠義、証人髙石数雄、証人森雄作)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告は、平成三年七月から八月にかけて、宇都宮市内在住の進研ゼミ会員から、「進研ゼミの名前を語って営業に来たが、本当に進研ゼミの営業か。」といった内容の問い合わせ数件を受けた。このため、原告の社員が、右情報提供者らを訪問して事情を調査したところ、被告諏訪の名前が判明し、同人が三省堂が企画・編集しているエスコムという教材を訪問販売するにあたって進研ゼミと名乗ったこと、「この地域では、進研ゼミの教材と学校の授業内容が違っているので、教科書に合うような教材を作り直しましたので、そちらの教材に切り替えて下さい。切り替え手続は私どもの方でします。」というようなセールストークを用いたこと、既に納入した学費については、退会した時点でまだ送られていない教材分の金額を払い戻す旨の説明をしたこと等の情報を得た。

(2) 前記調査結果を踏まえて、原告は、平成三年九月一六日、被告諏訪に対して警告書を送付したが、その後も進研ゼミ会員から寄せられる被告諏訪の営業に関する情報は後を絶たず、平成五年六月八日、再度警告書を送付した。

(3) 被告諏訪の営業に関する情報提供者の居住地は次第に拡大し、栃木県、茨城県、埼玉県及び福島県に及んだため、原告は、進研ゼミ会員の保護 者に宛てた案内書中に、「進研ゼミ」を称する不審な訪問及び電話に対 する注意と情報提供を呼びかける文章を記載するとともに、平成五年六 月から平成六年六月までの間に、六回にわたって、右地域を中心に、進 研ゼミ会員の保護者に宛てた右同様の注意と情報提供を呼びかける文書を送付した。

(4) 原告が平成六年一二月に仮処分を申請したため、被告諏訪の営業に関する情報提供数は、一旦は下火になったものの、徐々に増え、平成七年九月ころには仮処分前の状況(月間二〇件程度)に復した。

以上の認定事実によれば、被告諏訪の訪問を受けた進研ゼミの会員の中には、被告諏訪の訪問販売活動を進研ゼミと関連のあるものと誤解し、原告に問い合わせる等した者がおり、その数は、一時的に減少したことはあるものの、平成三年七月以降、ほぼ恒常的に相当数に上っていたことが認められる。

(二)  被告らの営業活動

(1) 被告会社代表者兼被告諏訪本人(以下「被告本人」と略す。)の尋問結果によれば、同人自身においても、以下の事実を認めている。

<1> 被告諏訪は、高校一年生を対象として、三省堂が企画・編集しているエスコム高校ゼミ等の学習教材を訪問販売しているが、これらの教材では、進研ゼミとは異なり、三年分の教材を一括購入する契約になっており、代金の支払はクレジットを利用する方式が取られている。

被告諏訪は、自己が代表取締役である被告会社として販売活動をすることもあれば、被告諏訪個人として、大学入試模擬テストセンターという名称を用いて販売活動をすることもあり、高校生を対象とする場合には、大学入試模擬テストセンターの名称を使うことが多かったが、特に基準を設けて使い分けることはしていなかった。

<2> 被告諏訪は、入手した高校一年生の名簿を基に、まず、アルバイトの者にその高校生の家庭に電話をかけさせ、使用している教材を聞き出させて前記学習教材を訪問販売する対象家庭を抽出していたが、相手が進研ゼミの会員であることが判明した場合には、教材購入の可能性があるとして、訪問対象に振り分けていた。

<3> 被告諏訪は、前記方法で抽出した進研ゼミ会員を自ら訪問し、右会員及びその保護者に対し、現在使っている進研ゼミの教材が授業の進度に合わないことを説明し、教材の切り替えを勧めた。

<4> 被告諏訪は、訪問時に、進研ゼミが教材を会員に送る際に使用する封筒を数通持参していた。

<5> 被告諏訪は、進研ゼミ会員に対し、進研ゼミの脱会手続を教え、時には、自ら脱会手続を代行することがあった。

<6> 進研ゼミ会員が被告諏訪の勧める教材に切り替えることに同意した場合には、被告諏訪の持参した信販会社の信販申込用紙に必要事項を記載することになるが、その多くの場合、申込者本人に申込者欄を記入させた後、被告諏訪が商品名、販売価格、支払方法等を記入していた。

<7> 信販会社であるジャックス及びカワイアシストは、当初、被告諏訪を代理店としていたが、信販申込者から、進研ゼミと思って契約したのに進研ゼミではなかったという苦情をそれぞれ一〇件程度受けたため、被告諏訪に対し、営業方法に問題があることを指摘し、その後、被告諏訪との間の代理店契約を解除した。

(2) 稲見健二及びその保護者に対する勧誘

被告諏訪が、平成六年七月四日、当時進研ゼミの会員であった稲見健二の自宅を訪問した事実は、当事者間に争いがないところ、甲第九号証の一及び証人稲見明子の証言によれば、稲見明子が被告諏訪の訪問後、進研ゼミに問い合わせ、その結果、被告諏訪の勧めた教材が進研ゼミと関係のないことを知り、被告諏訪との契約を解約したことが認められる(なお、被告本人の供述中には、稲見明子は稲見健二が教材を最後までやり通せないだろうと考えたために右契約を解約したと述べる部分もあるが、そもそも右供述自体が曖昧であるばかりか、稲見明子はこれを明確に否定する証言をしているうえ、同人の証言によれば、稲見健二はその後も進研ゼミの受講を継続していると認められることに照らし、被告本人の右供述部分は採用できない。)。

これに対し、被告諏訪は、乙第一号証及び被告本人尋問において、稲見健二本人に対しては、訪問前の電話で、母親の稲見明子に対しては、訪問時に、それぞれ自分の勧める商品が三省堂のゼミであることを何度も告げ、進研ゼミとの比較をしたうえで三省堂のゼミを勧めたと述べている。

しかしながら、右に認定した稲見明子の取った行動からすれば、稲見健二及び稲見明子(以下「稲見親子」という。)が被告諏訪を進研ゼミの関係者と誤解していたことが推認される。そして、仮に、被告らが主張するように、被告諏訪が訪問時に三省堂の名をはっきり告げ、しかもこれと比較対照する商品として進研ゼミを位置づけて説明したのであれば、稲見親子に前記のような誤解が生じることはおよそありえないものといわざるを得ない。すなわち、被告ら自身も認めるように、進研ゼミを主宰する福武書店ないしはベネッセコーポレーションと三省堂はいずれも世に広く知られた企業であって、それを前記認定のように、原告に情報を寄せた相当数の進研ゼミ会員が、両者を同じ会社と考えるということは到底起こり得ないことである。被告諏訪は、被告本人尋問において、同じような会社という認識が同じ会社と理解されたと述べるが、これは詭弁というべきである。

しかも、2(二)のとおり、被告諏訪は、進研ゼミ会員宅を訪問する時に進研ゼミが教材を会員に送る際に使用する封筒を数通持参しており、甲第九号証の一及び証人稲見明子の証言によれば、稲見親子を訪問した際にもこれを四、五枚持参していたことが認められるところ、この理由について、被告本人は、自分が進研ゼミとは異なる商品を勧誘していることを形で示すために持ち歩いていたと述べるが、右理由は、甚だ説得力を欠き、むしろ、右封筒を見た進研ゼミ会員に、被告諏訪が進研ゼミと関係のあることを印象づける小道具として用いていたとしか考えられないところである。

以上によれば、自分の勧める商品が三省堂のゼミであることを何度も告げたという被告本人の供述は信用できず、甲第九号証の一ないし三及び証人稲見明子の証言により、被告諏訪が稲見親子を訪問した際の経緯は、次のとおりであったことが認められる。

<1> 被告諏訪は、訪問した日の昼に、稲見健二本人に対し、電話で、進研ゼミの者が教材のセールスに行く旨を告げた。

被告諏訪は、訪問時には、何とも名乗らなかったが、事前の電話で進研ゼミの者だと名乗っていたこと、進研ゼミの問題が送られてくる封筒を四、五枚持っていたことから、稲見親子は、被告諏訪を進研ゼミの関係者だと思い込んでいた。

<2> 被告諏訪は、応対した稲見親子に対し、エスコム高校ゼミのパンフレットを見せたが、詳しい説明はしなかった。

稲見親子は、被告諏訪を進研ゼミの関係者と思っていたので、進研ゼミの教材が数種類あり、被告諏訪が現在の教材を学校の授業に合った他の種類の教材に替える勧誘に来たものと考えて同意した。

<3> 稲見明子は、被告諏訪が進研ゼミの解約及び残金の払戻手続をしてくれると言ったことと、信販申込書の販売店欄に大学入試模擬テストセンターとのみ記載されていたことから、被告諏訪が帰った後になって不審に思い、進研ゼミに問い合わせ、被告諏訪の勧めた教材が進研ゼミと関係ないことを知って被告諏訪との契約を解約した。

右認定事実によれば、被告諏訪が、稲見親子の勧誘に際して、「進研ゼミ」という表示を口頭によって使用したものというべきである。

(3) 大塚和之及びその保護者に対する勧誘

被告諏訪は、平成六年七月二八日、当時進研ゼミの会員であった大塚和之の自宅を訪問した(当事者間に争いがない。)が、被告諏訪自身、被告本人尋問中において、契約した日の夜に、大塚和之の父親から「進研ゼミと混同し、勘違いして契約してしまったが、進研ゼミと違うではないか。」という抗議の電話を受けたことを認めており、稲見親子の場合と同様に、大塚和之及びその保護者においても、被告諏訪を進研ゼミの関係者と誤解していた事実が認められる。

前述のとおり、被告諏訪が三省堂を名乗っていれば、右誤解が生じる余地はないから、三省堂を名乗ったとする乙第一号証の記載は措信し得ず、甲第八号証によれば、被告諏訪が事前の電話及び訪問時に、進研ゼミから来たと名乗っていたことが認められ、右事実によれば、被告諏訪は、大塚和之の勧誘に際して、「進研ゼミ」という表示を口頭によって使用したものというべきである。

(4) 甲第一一及び第一二号証の各一によれば、被告諏訪が、中野織江及び五十嵐里見の各保護者に対しても、進研ゼミの者と名乗って訪問販売の勧誘をしていたことが認められ(前述のとおり、三省堂を名乗ったとする乙第一号証の記載は措信できない。)、右事実によれば、被告諏訪は、右両名の勧誘に際して、「進研ゼミ」という表示を口頭によって使用したものというべきである。

3  2(二)(2)ないし(4)のとおり、被告らがその営業である学習教材の訪問販売を行うに際して、「進研ゼミ」という表示を口頭で使用したことは、前記各事案において認められるが、2(一)のとおり、被告諏訪の訪問を受けた進研ゼミの会員で、被告諏訪の訪問販売活動を進研ゼミに関連があると誤解して原告に問い合わせ等をした者の数が恒常的に相当数に上っていたことからすれば、右使用は、前記認定の事案のみにとどまらず、むしろ、被告らの訪問販売活動においては、恒常化していたことが推認される。

そもそも、被告諏訪の訪問販売の方法は、2(二)(1)において、被告諏訪自身が認めているように、進研ゼミ会員はすべて勧誘の対象に組み入れ、いわば進研ゼミ会員を標的としていたのであり、2(二)(2)ないし(4)の具体的事案に見られるように、被告諏訪があたかも進研ゼミの関係者であるかのような印象を与えて、教材の「取り替え」と称し、進研ゼミ会員の混乱に乗じて、自らの教材を売り込むというものであるから、その過程においては、事案によって程度の差こそあれ、進研ゼミを名乗ることが必然の要素になっていたものと考えざるを得ない。

したがって、被告らは、「進研ゼミ」という原告の商品等表示と同一の表示を使用したものということができ、前記認定事実によれば、この使用が原告の営業と混同を生じさせることは明らかであるから、被告らの右使用行為は、不正競争防止法二条一項一号にいう「不正競争」にほかならないし、同時に民法七〇九条の不法行為にも該当する。

そして、被告らの右不正競争が、結果として、原告の顧客を奪うことは見やすい道理であり、しかも、被告らの応訴態様を考えれば、被告らが今後も同様の不正競争を反復するであろうことは容易に予測されるから、被告らの右不正競争によって原告の営業上の利益を侵害するおそれがあることは明白である。なお、一2(二)(1)<1>のとおり、高校生を対象とする教材の販売活動において、被告会社の名称が使用されることは、被告諏訪個人としての大学入試模擬テストセンターの名称に比して少なかったが、これらの名称は特に基準を設けて使い分けられていたわけではなく、しかも、被告会社は被告諏訪が代表取締役として経営している会社であることからすれば、被告会社による今後の侵害も容易に予測し得るところである。

よって、原告は、被告らに対し、不正競争防止法三条に基づく差止請求権を有する。

二  争点2について

証拠(甲第一一〇号証の一、二、第一一三、第一一四号証、第一一五ないし第一二〇号証の各一ないし三、第一二一ないし第一二四号証、第一二五号証の一、二、証人森雄作)によれば、原告が、被告らの不正競争又は不法行為により、被った損害は以下のとおり合計七八四万八七九四円であることが認められる。

1  不正競争が被告らによって行われたことを特定するために、株式会社日本インヴェスティゲーションに支払った調査費用合計七六万六一六〇円

同様の目的で株式会社帝国データバンクに支払った調査費用合計一万一三一九円

2  原告従業員を事情聴取のために進研ゼミの会員宅に派遣するために要した費用合計二三万三八八〇円

3  進研ゼミの会員及びその保護者に対して注意を促す通知の発送に要した費用合計四八三万七四三五円(甲第一一三号証記載の第一回ないし第四回の経費は概算であり、甲第一一五ないし第一一八号証の各二により、修正した金額が以下のとおりである。)

(一) 第一回 三五万二二七五円

(二) 第二回 一五一万三五六二円

(三) 第三回 三七万六七七五円

(四) 第四回 六八万二三〇〇円

(五) 第五回 三八万七九六九円

(六) 第六回 一五二万四五五四円

4  本件事案の難易、審理経過、本訴認容額、本訴に至る経緯等に鑑み、原告が被告らに請求し得る弁護士費用の額としては、二〇〇万円とするのが相当である。

なお、一2(二)(1)<1>のとおり、被告諏訪の販売活動は、場合により、被告会社の名称を用いて被告会社の営業として行う場合と、被告諏訪個人が大学入試模擬テストセンターの名称を用いて行う場合があり、その使い分けには特段の基準がなかったことが認められるところ、被告会社は被告諏訪が代表取締役として経営し、自ら訪問販売活動を行っている会社であって、実体として見れば、被告会社の販売活動と被告諏訪の販売活動の間には何も差異がなく、被告諏訪がいわば場当たり的にいずれかの名称を用いていたことからすれば、両者の販売活動の間には連続性があるというべきである。よって、被告らの不正競争と不法行為は、いずれも共同不法行為になるものと評価できるから、被告らは前記損害について連帯して損害賠償責任を負うものといわなければならない。

三  よって、原告の各請求は、被告らに対する差止請求及び被告らに対し、連帯して七八四万八七九四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年一月二八日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告らに対するその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 増山宏 裁判官 宮岡章 裁判官 男澤聡子)

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